「世界の救世主・リアクト」

天井の絵柄が変わり、怪しげな洞窟に群れをなす蟲や触手の絵が現れた。
そして黒野が一言。
「淫妖蟲の世界か…」
一旦は睨んだ優樹であったがすぐに天井から視線を外し、黒野を見つめる。
「で、一体どんな世界なんだ?聞くからにエロそうなんだが…」
優樹は嫌悪感を露わにした顔で言う。さぞかしそっち方面は興味がないのだろう。
「まあ端的に言えば、妖魔と呼ばれる怪物が年若き少女たちを蝕もうとする何とも惨い世界だ。やることなすこと酷いらしいぞ、蟲が×××したり、触手が少女の×××に…」
「よし、よ〜く分かった。これ以上喋るな。気持ち悪くなる。」
黒野の説明を頭を抱えて遮った優樹。この手の話はやはり駄目なようだ。
改めて聞き直そうとする。
「それでこの世界にヒーロー、もしくはヒロインはいるんだろうな?」
「ああ、もちろん妖魔退治のプロフェッショナル、退魔師とやらがいるそうだ。」
「おいおい、いつの時代のやつらだよ。」
半分呆れた顔をする優樹。彼にとってもっと武装し、変身ヒーローが出てくるものだと思っていたようで期待しただけ損をした気分なのだろう。
「まあ武器が御札や刀だからね、君の言うとおり、あながち時代錯誤かもしれないな。」
黒野も関心したように呟く。
「まあ、ここでぐだぐだ喋ってても始まらない。外に出るぞ。」
「ああ、いってらっしゃい」
…一瞬時間が止まる黒野書店。いや、止まったように一人が固まった。もう一人は何事もなかったように本に目を向ける。
「ちょ、ちょっと待て!お前は出ないのか?ナビゲーター何だろう?しっかり案内しろよ!」
少し間をおいてやっと思考回路が回復した優樹は慌てたように喋る。
しかし、黒野は努めて冷静に、
「確かに案内役だが、そこまではできないな。私のできることは世界の紹介と情報だけだ。道は自分で探せ。」
と言い放った。流石の優樹も絶句する。
「まあ、時と場合によるがな。今回は足手まといになると判断した。だからここに残らせてもらうよ。」
「はい、そうですか…。」
諦め顔の優樹。


世界の救世主、リアクト。様々な世界を渡りその心は何を捉える?
第2話「巣食う蟲」

これ以上何を言っても無駄だと悟った。もういい。さっさと行くか。
と部屋の扉を開けるが、開けた先は…
「廊下?」
一瞬彼は何が起きたか分からなかった。来た時は玄関だっただったはず…それが廊下に変っていた。
これを驚かずにいられるだろうか?否、驚く。
優樹はすかさず振り向き、「おい、景色が変わってる。どうなってんだ?」
黒野に尋ねる。帰ってきた言葉は、
「当たり前だ、世界を飛んできているのだから。それに君の役割を早くこなすため、できるだけ救うべき場所に近づけてやったのさ。つまり、君の役割はこの学校にあるってことだ。」
淡々に答える黒野。彼にとってはすでに慣れた出来事なのだろう。
だが、
(学校の中に書店はないだろう…普通は…)
もう驚き疲れたとがっくり肩を下ろす優樹。そのまま無言で外へ出るのだった。

なぜか真夜中の学校を一人あてもなく彷徨う優樹。背筋から冷たい冷気が漂い、誰でも感じるであろう不気味悪さ。
しかし、何も臆さず進む優樹。彼に恐怖という2文字はないようだ。…現時点では。
だが彼は何かを感じ取っていた。武者震いが止まらないのだ。絶対に何かが起こる。それが彼の頭の中で警鐘を鳴り続けている理由だ。
そしてその時がやってきた。目の前が禍々しい闇に飲み込まれたかと思うとそこから再び穴があき巣窟へと誘うかのように穴が開いた。
罠か?と一瞬考えたが、すぐにそれを捨て去る。ここで入らなければ、何も救えなくなる。そう思ったからだ。
そして一気に穴に入る。

そこはもっと不気味さが増していた。どこにも蛍光灯がないのに明るく薄赤く周りを照らし出している。
そしてもう一つは、嬌声が聞こえるということ。
嫌悪感に包まれる優樹。できれば耳を塞いで進みたいが、気配をすごく感じているので油断はできない。
彼は我慢し声のする方へ歩を進める。
だが優樹のすぐ後ろには触手が迫っていた…そして優樹の足に絡みつこうとしたその時、
一発の銃声が洞窟に木霊する。それは優樹が放ったギャザーブッカーの銃声だった。
「バレバレだっつうの!」
足元に向けて撃った優樹振り向き迫りくる触手を打ち抜く。
そして周りから大量の蟲、触手が姿を現す。
「全く覚悟してたがまじかで見ると流石にきついな。」
しかめっ面をしたままの優樹はカードを取り出す。そして、ベルトに装填し、
「さあ、害虫駆除だ。変身!」
〈ヒーローライド…リアクト!〉
周りから現れた影が迫りくる蟲や触手を追い払い、優樹を包むと深紅のボディに身を包んだリアクトが姿を現す。
「やっぱ虫には虫か。重甲!」
そう呟くと、カードを取り出し、ベルトに装填する。
〈ヒーローライド…ブルービート〉
ビーファイターの世界」でのヒーロー、通称ブルービート。「重甲!!」のキーワードと共に強化服インセクトアーマーを装着する、人間の最新科学と昆虫族の未知の力との融合で生まれた戦士たちである。
Rブルービートは右太ももに装備されたインプットマグナムを持ち、蟲や触手に撃ち込んでいく。しかし、撃っても、撃っても水が湧いてくるように次々に蟲たちが押し寄せ、ついに四肢を触手に絡み掴まれ、抵抗虚しく、吊るしあげられる。
「すまないが、俺はそういう趣味は持ち合わせていない!」
優樹は余裕とばかりに冗談を言い放ち、どこから出したのかいつの間にか手にはカードが握られ、それをベルトに向け投げると、吸い込まれるように装填される。
〈アタックライド…スティンガーブレード〉
Rブルービートの右腕にスティンガーブレードと呼ばれるドリル回転する刃が回転をはじめ、衝撃波で右腕にあった触手を消し飛ばすと、次に両足、左足に絡みついた触手を切り落とす。
そして地面に着地するとすかさずカードを装填。
〈ファイナルアタックライド…ビ・ビ・ビ・ビーファイター!〉
電子コールの後にスティンガーブレードに力が集中し、蟲や触手に向け思いっきり振りぬく。必殺技ビートルブレイクの衝撃波がヒットし、蟲や触手は炎に包まれる。
「これでしばらくはこっちによっては来ないだろう。」
リアクトに姿を戻し、すぐに先へと進む。
しかし、それを遮るものがいた。
「厄病神リアクト、貴様は僕たちにとって邪魔な存在です。できればここで消えていただきたい。」
そこに姿と現したのは銀色の髪をした一風好青年に見える人間がたっていた。
「誰だお前?妖魔、それとも退魔師か?」
「どちらでもありません。ただ一つ言えることは…あなたの敵だということです。」
銀色の髪をした青年が言い終わると同時に青白いオーロラが姿を現し、そこから新たに何かが姿を現す。
「何!?」
優樹はオーロラが出現したことに驚くと同時に銀色の髪をした青年が妖魔、退魔師でもないと信じる。
「紹介しよう!君の足どめの相手となる長門有希だ。さあ存分に戦うんだね。あ、あと彼女は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだから手加減とかいらないから、そんなことしら痛い目を見るよ。それじゃあ、さよなら厄病神リアクト…」
そう言い残し青年はオーロラの中へ消えていった。
「なんてやつだ、それになんだよ、対有機生命体なんたらかんたらって、くそっ、こんな時に、…嬢ちゃん、さっさと帰ってくんないかな?」
「…それはできない…」
「ちっ、なら力ずくでもどいてもらうぜ。」
そう言い放つとリアクトは、カードを取り出す。
「ややこしい奴にはややこしい奴だ。」
カードを装填する。リアクト。
〈ヒーローライド…ビックワン!〉
ジャッカー電撃隊の世界」の行動隊長でありサイボーグでもある戦士、ビックワン。
ジャッカーの動力源である、核、電力、磁力、重力のエネルギーを全て併せ持ち、「白い鳥人」とも呼ばれる。
「…能力不明…」
有希はそう呟く。
「ああ、そのとおりだ。神出鬼没の戦士の力を知るんだな。」
Rビックワンはカードを装填。
「一気に決めさせてもらう。さっさと元の世界に帰るんだな。それとあいつに会ったら言っとけ。俺は厄病神じゃない、救世主だと!」
「…救世主…」
〈ファイナルアタックライド…ジャ・ジャ・ジャ・ジャッカーデンゲキタイ!〉
4大エネルギーがステッキに集中し、それを放つ。凄まじい威力が有希を包みこむ。
そしてそこには跡形も残っていなかった。
「うまく次元を超えることができればいいがな…」
彼の放った技は元の世界に送り返す技であった。上手く送り返せたのかは誰もわからないが…
変身を解き、彼は急ぐ。何かが…何かが危機を迎えようとしてる。止めに行かなければ。バッドエンドを避けるためにも。
(どうにか間に合ってくれよ…)
心の中でそう呟くのであった…


…続く

次回予告
「もういいの、なにもかも…どうでもいい」
『快楽に堕ちた者の末路だ』
「俺のことをもう覚えてないのかよ!」
「いいや立ち上がれるさ、何度でもな!」
「リアクト!君はほんとに悪運が強い!」
次回、世界の救世主・リアクト
「快楽へと惑わす者」
全てを救い、全てを修正(なお)せ!