巣窟の中では嬌声が響く。
女たちの乱れる姿が映る。
少年は力尽きたかのように倒れる。
全てはバッドエンドへと着実に進んでいた。
「フフフ…こやつらの力は我が頂いた。貴様らには蟲どもの苗床になってもらうぞ」
そう喋るのは馬の頭を持ち、体は人間のように、しかも体格の良い体をもった異常な存在だった。
「我を、このナイトメアを止める者はもうおらん。さあ快楽に落ちし退魔師どもよ。我に跪くがいい!」
高らかに叫ぶ妖魔・ナイトメア。
「まだだ。俺が貴様を倒す!うおおおお!!」
倒れていたはずの少年は最後の力を振り絞り、立ち上がってナイトメアヘ駆け出す。


世界の救世主、リアクト。いくつもの世界を渡り、その心は何を捉える?
第3話「快楽へと惑わす者」


少年は最後の力を使って駆け出す。だが少年とナイトメアの間に銃弾が放たれ、床へ火花を散らす。
ナイトメアと少年は銃弾を放った相手を見つける。
「まったく、よくそんな状態で敵に向かっていくよな。この世界の退魔師は役に立たないんじゃないか?」
そこに現れたのは高上優樹=リアクトであった。
「貴様か、我の巣窟に迷い込んだ人間は…だがしかし、おかしな格好だ。お前も退魔師か?」
ナイトメアは、珍しそうに相手を眺める。
「いいや、違うな。だがお前を倒す相手には変わりはない。」
そう言いながら、カードを取り出し、ベルトに装填する。
≪アタックライド、スラッシャー≫
電子コールと共にギャザーブッカーが剣形態へ変形し、一気に攻撃を仕掛けるために駆け出すリアクト。
「フッ、我の力にならぬものは消えるがいい!」
ナイトメアも攻撃態勢に入る。2人は戦闘に入る。リアクトは剣でナイトメアの体を斬りつけるが、すぐに再生し、リアクトに打撃を与える。
「その程度の攻撃は我には効かぬ。水依の力を奪った我にはな!」
ナイトメアは触手に捕えられた少女の一人、水依の回復の力を利用し、戦いを有利の方向へもっていった。押されぎみのリアクト。
「次はこれだ。ハッ!!」
ナイトメアから放たれたのは雷だった。もろに攻撃を受けるリアクト。ついに変身が解除されてしまい、少年の元に倒れこむ。
「貴様が現れたところで、結局は我が全てを掌握する。闇に閉ざされるのだ、その証拠に見るがいい。この苗床どもが貴様らを消してくれる。」
触手から抜け出した3人の少女たちは武器を構えて、2人に攻撃を仕掛けようとする。
「深琴!どうしてだ?どうして武器を向ける。」
深琴と呼ばれた赤い髪をポニーテールでまとめた少女に少年は訊ねる。
「だってしょうがないじゃない。こんな気持ちイイことを知ったら従うしかないわ。もう終わりよ…って、あなた誰だったかしら、まあいいわ。さっさと終わらして楽しみましょう。」
「俺は、ヤマトだ!俺のことを覚えていなのか?」
彼の声は悲壮感を漂わせ空しく響く。その言葉を微塵も感じず彼女は告げる。
「もういいの、なにもかも…どうでもいい。」
「これが快楽に堕ちたものの末路だ、しかと見ておくがいい。」
虚ろな表情をした深琴がヤマトの首筋へ刀を向ける。そして一気に刀を振るう。
だが、それは阻止された。
「やめろ!くそ、こいつらの相手もしないとならないなんて厄介だぜ。ヤマトとかいったな?お前、戦えるか?」
傷ついた体でなんとか深琴を突き飛ばした、優樹。
「む、無理だ…俺は全てを失った。愛する者も、力も…」
項垂れるヤマト。愛する者を奪われ、尚且つ殺されそうになっただけに彼の心は大きなショックを受けてしまった。彼はただ涙を流すだけだ。
「なら一人でそこに蹲っていろ。俺が全員を倒してやる。」
「だ、だめだ、深琴たちも殺す気か!」
「ああ、それで最良の方法ならな…何もせず、蹲ってることは俺は大嫌いだ。救えるならどんな手段を使ってでも動け。お前の選択は全てが間違ってる。突き動かれるままに動き、それが他の奴らを不幸にさせる。もっと考えろ、あの時だってまだ隙を窺えたはずだ。お前は何も考えず、突っ走った。」
優樹が間に入ったときのことを話す。
「時に怒ることがあるだろう。だが守りたいものがあるなら冷静になれ。それが戦士だ、それが戦いだ!」
「俺は…俺は…」
涙を流すヤマト。彼は理解した。守ろうとしたことが裏目に出てしまったこと。そして優樹の諦めない信念を…
「頼む、深琴たちを救ってくれ。今の俺にはまだ未熟だけど、いつか正しい選択をできる戦士になる。そのためにはあいつらが必要なんだ。」
「フッ、その意志があるならおまえはもっと強くなれる。」
やわらかな笑みを浮かべる優樹。
「そろそろくだらない雑談はやめろ。我の邪魔をするものは誰であろうと許しはしない。」
「邪魔なのはお前だ。馬野郎。」
優樹は怒りを込めた口調でナイトメアの言葉を遮る。
「何だと?」
「貴様のやってることはただの発情した馬だってことだ。」
「だからなんだ。人間は欲望のままに生き、そして快楽に堕ちる、無様な生き物だ。そんな無様な生き物は我の苗床になる方がよっぽどいい。」
「いいや、人は立ち上がれるさ!何度でもな!確かに人間は快楽に堕ちやすい。だが堕ちてから過ちに気付く。そして立ち上がろうとする。ずっと人は快楽の中で生き続けてはいけない。」
「フッ、なぜだ、人は苦痛も味わう愚かな生き物か?」
「違う。苦痛もあるが、それだけじゃない。自分にとって大切な存在を守ろうと心が動く。その守りたい意志があるのなら快楽を越えられる。それが人だ、人間の力だ!」
「貴様、何者だ?」
優樹はカードを取り出し答える。
「ただの救世主だ!すぐに分かる。変身ッ!」
≪ヒーローライド、リアクト≫
リアクトヘ変身したと同時にギャザーブッカーから一枚のカードが飛び出す。
元々絵柄の付いていないブランクカードだったが、カードの絵柄が戻る。
「そういうことか。よ〜く分かった。」
リアクトは一度そのカードをしまうと、新たなカードを取り出す。
「行け、苗床どもよ、奴を消し去ってやれ。」
ナイトメアの命令に従い、リアクトに迫る少女たち。
「俺は救世主だ、こういうこともできる。さあ妖怪退治だ。」
≪ヒーローライド、カクレンジャー
召喚されたのは「忍者戦隊カクレンジャー」の世界で戦隊ヒーローで悪い妖怪たちと戦った戦士たちである。
「す、凄い…」
いきなり5人も現れたことに驚くヤマト。
「いくら増えようと我の相手にはならん。行け、蟲どもよ。」
触手や蟲たちも大群で現れる。カクレンジャーは少女たちと蟲を相手に戦う。
「数で押し切るならこっちも数で勝負だ。」
そう言い、リアクトはカードを装填する。
≪アタックライド、イリュージョン≫
電子コールと共にリアクトは3体に分身する。それぞれ実体を持つため攻撃が可能になる。
一気に大人数での混戦に入る。リアクトは3体の分身で少女たちに挑む。1人は銃形態で足止めして首にチョップし、気絶させる。もう一体は難なく詰め寄り少女の腹に拳を突き、気絶させる。だが、深琴が厄介だった。素早い斬り合いでリアクトと互角の戦いを繰り広げる。
「たあああ!!」
「はあああ!!」
互いの剣がぶつかり合い、火花が散る。
「ちっ、無傷で気絶させるのは至難の業だな。少し我慢するんだな!」
一気に剣を弾き、カードを装填する。
≪ファイナルアタックライド・リ・リ・リ・リアクト≫
リアクトは剣を一気に振るい、衝撃波で深琴を突き飛ばす。
「きゃあああ!!」
突き飛ばされた深琴は壁に激突し、気を失う。
カクレンジャーは蟲を蹴散らすとナイトメアへ挑む。
「ええい、これ以上好き勝手にさせるか!」
カクレンジャーに攻撃するが彼らは巧みによけ次々に攻撃を仕掛けていく。
だが、ナイトメアには再生能力があるため有効な攻撃を与えることができない。
ついにカクレンジャーも押され始める。
そこへ駆け寄るリアクト。6人でナイトメアに攻撃をして行く。しかし、このままでは埒が明かないので、リアクトは新たにカードを装填する。
≪ヒーローライド・シンケンレッド≫
リアクトはシンケンレッドに変身する。
侍戦隊シンケンジャー」の世界での戦士であり、外道衆と戦った、「火」のモヂカラを司る戦士である。
「姿を変えただと?」
流石にナイトメアも困惑する。
「お前みたいな外道野郎には好敵手だ。…シンケンレッド、高上優樹。いざ参る!」
決め台詞を放ち、カードを装填。
≪アタックライド・レッカダイザントウ!≫
Rシンケンレッドは専用武器の巨大な剣を召喚し、それを軽々振り回す。
同時にカクレンジャーも攻撃を開始し、ナイトメアに反撃の隙を与えない。
ナイトメアはRシンケンレッドの攻撃に耐え切れず、ついに押され始める。
「ええい、こうなったら貴様を操るまで、ハッ!」
ナイトメアは妖術を使い、Rシンケンレッドを操ろうとする。
「俺にはそんなものは通用しない!」
Rシンケンレッドは筆型携帯電話・ショドウフォンを取り出し、「反」の文字を空中に書く。
モヂカラによって、妖術を遮ることができた。
「く、何故だ、なぜ人間がこれほどまでに強さを見せる?」
「俺は別格だ。どんな世界も救う、必ずな。その意志がある限り、俺は負けない、負けるわけにはいかない!」
≪ファイナルアタックライド・シ・シ・シ・シンケンジャー!≫
Rシンケンレッドは烈火大斬刀を大筒モード(銃形態)に変形させ、照準をナイトメアに向け、一気に放つ。
回復が間に合わなくなったのか、苦しみ始めるナイトメア。
「これで止めだ。この世界の力、使わせてもらうぞ。」
リアクトの姿に戻るとすぐにカードを装填する。
≪アタックライド・タイマトウライコウ!≫
深琴の専用武器「退魔刀雷光」を召喚し、最後にカードを装填する。
≪ファイナルアタックライド・リ・リ・リ・リアクト!≫
刀にエネルギーを込めて最大パワーで放つ、リアクトの必殺技、「リアクトサンダー」をナイトメアに直撃させる。急所を突いたその攻撃はついにナイトメアを跡形もなく消し飛ばした。
「ぐぎゃあああああああ!!」
ナイトメアの断末魔が長く巣窟に木霊すのであった…。


程なくして巣窟は消え去り、優樹たちは普通の教室に戻ってこれることができた。
少女たちは未だに気絶している。
ヤマトと優樹の間に長い沈黙が訪れる。
最初に口を開けたのは優樹であった。
「もしまだ、彼女たちが目を覚ましても快楽に堕ちたままなら、…ヤマトはどうするつもりだ?」
「答えは決まっているよ。正気に戻るまで踏ん張って見せるさ。…一生かかっても。優樹さんのおかげでやっと自分の道が開いた感じです。」
「…自分の道?」
「大切な存在を守るための道を…」
「強くなれヤマト。強くなって大切な人を守れ。」
「はい!」
強く頷くヤマト。それを穏やかな表情で見つめる優樹であった。


所変わって学校の屋上に1人の青年が立っていた。
「リアクト!君はほんとに悪運の強い人です…この世界もリアクトによって、侵されてしまった…」
憂いげに空を見上げる青年。だがすぐに表情を戻し、
「次の世界で必ず消し去ってやります。ふふふ…次の世界が楽しみだ。」
そう青年は言い残し、青白いカーテンの向こうへ消えていくのだった。



優樹は黒野書店に戻って、椅子にすわり一息つくことにした。
「光明の言った通り、最初の世界から厄介な世界だったぜ。」
机に突っ放して疲れた表情の優樹。
そこにお茶と菓子を持ってくる光明。
「だから言っただろ。お前は悪運が強いんだ。この調子じゃ途中で倒れるぞ。」
席に座り再び本を読み始める光明。
「大丈夫だ、俺は世界を救う存在だからな。」
「突っ放して言っても説得力がないな。」
「うるせえ」
机を叩き起き上がる優樹。
しかしそれに反応したかのように天井の背景画が変わる。
優樹が見上げ、その天井に映っていたものは、大きな月が描かれ、木々は枯れ果てた、不気味な夜を映し出した背景画であった。
果たして彼らが待ち受ける次の世界とは…?


……続く


次回予告
「戦乙女の世界だって?」
「もう戦乙女はいない…」
「この世界は私のものだ!」
「闇の戦乙女だと?」
「今度こそ消えてもらいます。厄病神リアクト!」
「この世界、果たして俺に救えるか?」


次回、世界の救世主・リアクト
第4話「闇の戦乙女」
全てを救い、全てを修正(なお)せ!