リアクト=優樹がピンチに陥った時、謎の青年が姿を現し優樹を助ける。
そして青年は手に持った武骨な形をした紫の色を彩った銃にカードを差し込む。
と同時に一言。
「変身」
≪ヒーローライド…リルート≫
高々に腕を振り上げ引き金を引くと同時に電子ボイスが鳴り響き、周囲にはヴィジョンに似たものが現れ、青年に重なりアーマーと化していく。
そして最後のシルエットのヴィジョンが重なると紫と銀の色を散りばめた姿に変身する。

「何?」
優樹はその光景を目の当たりにして自分と同じような力を持った者がいたことに驚く。

変身を終え、彼は標的に向け銃弾を放つ。
しかし、プレデターは再び透明化して姿を消してしまう。
「甘いですよ。僕には見えます。」
そう呟くとカードホルダーからカードを取り出し銃に装填。
また空に向け引き金を引く。
≪アタックライド…サーチャー≫
電子ボイスが鳴り、直径30センチの一つの赤い球体が現れ縦横無尽にあたりを徘徊し、一点の場所に留まる。そこから謎の戦士はすかさず銃撃する。銃弾は何もないはずの場所で火花を散らし、そこから雄たけびと共に姿を現したプレデター。腕からは煙が出て、透明化の装置が壊れたことを示していた。
謎の戦士はゆっくりプレデターに近づいて行き、それと同時にカードを装填する。
≪ファイナルアタックライド…リ・リ・リ・リルート≫
標準をプレデターに定め、電子ボイスと一緒に銃口から無数のカードシルエットが展開される。
そして引き金を引くと同時に周りにあったカードシルエットは銃弾に吸収され、プレデターに直撃し大爆発を起こす。
優樹は満身創痍の状態からも立ち上がり、変身を解除している最中の青年に近づく。
青年はこの世界には不恰好な現代風の服をきて上着にはベストを着用している。髪は黒く顔は少し幼く、中3だと言っても信じてしまう顔立ち。少し消極的な性格の感じが漂う。
青年は優樹が近づくのに気が付くと眉を下げ不安そうな顔で訊ねる。
「怪我はありませんか?……って、おおありですよね。手当をしちゃいましょう……あっ救急箱は持ってなかったっけ」
しかもかなり天然が入っているらしい。
「気にするな、こんなのかすり傷だ。それよりお前は一体何者だ?」
優樹は真剣な眼差しを青年に向ける。だがその真剣な表情も気にせずおどけたような態度で答える。
「え〜とただの旅人ですかね?」
「なんで疑問形なんだよ!」
すかさず突っ込む優樹。
「だって今は呑気に旅をしてられませんから…今僕はリルートとしていろんな世界を救おうと思っていますから。それにここからが僕の救いの旅なんです。」
少し表情を落とす青年だったがすぐに表情を戻し生き生きとした声で喋る。しかし、優樹にはある単語が引っ掛かって上の空だった。
「世界を救う……リルート……」
青年は優樹の態度を知ってか知らず呑気な態度を保つ。
「ああ!そういえば自己紹介しておくのを忘れていましたね。僕の名前は永井 周希(ながい しゅうき)、19歳。好きな食べ物はオムライス。趣味は旅です、よろしく。え〜と」
「高上優樹だ。」
「優樹さんですね。今日からお友達です。」
周希はむりやり握手をしてにこりと笑顔を優樹に向ける。
(とんだ天然野郎に助けられたな……)
優樹はやっと意識が戻り、目の前にいる天然青年に苦笑をするしかなかった…
(まあ一度、光明の所に戻って話を聞くか)
優樹の考えがまとまりさっそく行動に移すのだった。


「何故、あの力を持った者がいるのでしょう……パラドックスの影響か……いいや違う、あれは”世界”で1つしか存在しないはず。てっきり壊れたと思いましたが僕の勘違いだったようです。本当に悪運の強い人です、疫病神リアクト。頼みますからこの世界で消えてくださいね…」
今までの戦闘を物陰から見物していた銀色の髪をした青年はリルートの登場に驚きつつも、今回も仕留めそこなったリアクトを心の底で煮えくりかえりそうな憎悪を隠し呟き、すうっと静かに姿を消すのであった。


世界の救世主リアクト、いくつもの世界を渡りその心は何を捉える?

第5話「女神たちの黄昏」前編


所変わって魔王軍の城。
暗黒の戦乙女と化したレイアはアリーヤを連れてデュークのもとに戻った。
「申し訳ありません、ご主人様。邪魔者が入ってきて、あまりアリーヤを虐めてあげられませんでした。」
甘い声で縋るようにレイヤは喋る。
「まあいい、これも想定のうち。この残月の戦乙女は俺が直々に調教してやろう。」
デュークは不気味な笑みを浮かべながら残月の戦乙女=アリーヤの顎を撫でる。アリーヤはそれを退け、憤慨した表情で、
「誰が貴様などに!堕ちてたまるものか!」
アリーヤはデュークに敵意を剥き出しにして食い下がる。
デュークはそれをものともせずに、
「なに、すぐに堕ちる。貴様もレイアのように快楽と情欲で身も心も俺に捧げるんだ。」
「貴様っ!!」
アリーヤは殺意の籠った視線でデュークを睨みつける。
その中に1人の美女が入ってくる。
「ご主人様、天界の制圧ほぼ完了です。あとは大神オーディンを倒すだけ。」
それは魔王軍に捕らわれ暗黒の戦乙女と化したオーディンの娘、ヒルデガードであった。もはや悪堕ちした彼女はオーディンは父とは認識せず、快楽の虜にされたデュークに仕える戦乙女として敵としかオーディンを認識していなかった。
「そうか……すぐに攻め落とせ、オーディンを追い詰めたころには俺も着くはずだ。フフッ、段階を早めてアリーヤをさっさと堕とすとするか。」
デュークは順調な段階に笑みを浮かべつつ、アリーヤの調教へと移ろうとする。
「ですが、先ほど邪魔した相手はどうなさいます?」
その場にいた元天界の軍帥フレイヤがデュークに訊ねる。
「そうですよ。さっきの戦いの時も、もうちょっと攻撃を加えられてたらバリアももたなかったですよ。」
横からはあどけなさが残る赤毛の美少女スクルド。元々戦乙女の見習いであった彼女だがフレイヤ共々デュークの調教に遭い、快楽へと堕とされてしまったのだ。
「構うものか……たかが1人で何ができる。こっちには戦乙女が3人もいる。奴が行動を起こしたところで焼き石に水だ。放っておけ。そうだろロキ?」
デュークはまた違う美女に訊ねる。
「そうかもな、キミの力ならばたぶん大丈夫だろう。」
面白そうに今までの行動を眺めていた青い髪をした美女・ロキ。彼女は半神半魔であり天界を知りつくし、大神オーディンに仕えていた側近でもあった。しかし、オーディンの人間も犠牲にし魔族を滅ぼすやり方に愛想が尽きて、今は未知なる力を持つデュークに力を貸している。彼女がいなければ戦乙女をこうも簡単に籠絡できなかっただろう。
「俺の力が遂に世界を制覇する。ハハハッ、ハハハハッ……」
絶大な力を手に入れた男は優越に浸り、高らかに笑う。
その姿を力なさげに見上げるアリーヤ
(シュウキ、どうやら私もダメみたいだ…後はお前だけが頼りだ……)
そしてアリーヤは絶望と快楽への扉へと誘われるのだった。


優樹たちは一度黒野書店に戻り、優樹の手当てと周希の事、この世界の事を聞いていた。
「つまりお前は、そのツールを偶然拾ったのか。」
優樹はそう言い放つと机に置いてある銃を眺める。
事のあらすじを聞き、徐々に周希について分かってきた。
周希は自分の世界で世界各地を回り、両親と旅をしていたが、いきなり青白いオーロラに包まれ自分だけ他に世界に飛ばされた。他の世界ではモンスターたちが大暴れして、最初はただ逃げまどうしかなかった。しかし、すさまじい焼け跡が残る大地で彼は一つのツールを見つける。
それが先ほどリルートに変身したツール・リルートドライバーであった。何とか変身し、その場を凌げたもののツールの使い方を知らない彼は未だ優樹のようにその能力を使いこなせていない。そしてリルートドライバーはサブヒーロー、ヒロインの能力を引き出すことが可能らしく、リアクトドライバーとは違った能力を持っているのだった。


周希は先ほど会った態度とは異なり、少し悲しげに話をしていた。
「はい、でも僕がこの力をうまく引き出せないために、次々に戦乙女の人たちが捕えられていきました。」
そしてもう一つ、彼は戦乙女と接触をしていた。そして共に魔王軍と戦っていたが彼の今の力では到底覆すことのできない戦局であった。そして誰も助けることができず、ついに最後の戦乙女アリーヤまでもが魔王軍の手中に嵌った。
「僕のせいなんです。僕がしっかり力を使いこなせないために彼女たちは敵になってしまった。」
そう言い放つ周希。今にも泣きそうな顔でどうしたらいいのかと不安げな心を明かしている。
「そうか……悪に堕ちた戦乙女か。」
「これからどうしたいいんですか?」
「酷だが戦乙女ごと魔王軍を倒すしないな。」
「そんな……」
「もう天界も魔王軍の支配が進んでいるんだったな。となると俺たちは2大勢力と戦うことになる。そんなでかい勢力に手加減なんてできる状態はどこにもない……」
きっぱり言い放つ優樹。
しかし、その瞳は確信に満ちていた。
「だがどうにかできる方法もある。」
絶望に一筋の光が与えられたような感じになる周希。
「それは一体?」
「お前が本当の力を見つけだす事だ。」
「えっ?」
「話を聞いてる限り、お前はいつも臆病なままだ、ただ絶望しか見ていない、戦乙女が捕まったら自分のせいだと責める。そうじゃないんだ、希望を持つんだ。次こそ救ってみせると思え、そして命ある限り戦え。自分自身に命が灯し続ける、何度だって立ち上がれる。だから俺は信じている、俺自身の力を。」
そうして優樹は拳をかざす。
「お前が前を見ようとした時、必ず力が宿る。だからお前の力でこの世界を救うぞ。まだ物語は終わらない。俺たちがいる限りな。」
その言葉に心動かされる周希。
(きっとアリーヤさんも僕にこのことを言いたかったんだな。今ならは分かる彼女の言葉が…)
『信じろ己を。さすれば道は開かれる。』
毎回のようにアリーヤさんと共に戦ってた時に言われたこと。だけど僕はいまいち理解していなかった。いや、その答えを敢えてはぐらしていたのかも、そうすることによって何を失っても平気でいられたから。だけど、僕が前をみないと本当に全てを失うことになる。そう命も世界も……そんなの嫌だ!僕はもう何も失いたくはない。だから戦う、アリーヤさん待っててください。必ずあなたを救います。
「それがお前の本当の笑顔か……周希」
優樹に指摘されたように自然に笑顔が出てきた。何故か希望が溢れてくる。不思議な感覚だ。優樹さんには不思議な力が宿ってるかもしれないな。人を希望に導く何かを持ってる。きっとこの人となら、どんな世界も変えられる気がする。これが救世主と自分から言い放つ原動力かもな。
「満足したか優樹。お前の力説が終わったならさっさと魔王軍をぶっ潰してこい。こっちはいい加減読書に集中できなくなってきた。」
水をさす形で言い放ったのは光明であった。読書をしていた彼は通常は集中して周りが見えなくなるが、今回の優樹の熱弁は勘に障ったらしい。
「いいじゃねえか、別に。折角のムードを台無しにするとは情けない奴だ。」
「優樹には言われたくない。」
「何をー!?」
「まあまあ、すいません、光明さん。あと紅茶美味しかったです。」
「キミは気にしなくていい。私ははそこの奴に言っただけだから。」
「んだと!」
「優樹さん、熱くならないでください。その怒りは魔王軍にぶつけましょう、ね。」
「たくっ、そうと決まればこんな本バカほっといてさっさと行くぞ、周希。」
「えっ、あっ、待ってくださいよ〜」
すぐに部屋から退出する優樹の後追う周希。
そして扉を見つめる光明。
「フン、頑張れよ救世主。そして周希君。君の力がどういったものを引き寄せるか楽しみだよ。」
優樹たちを労うようにただ真意を隠した言葉。彼は奥底にある何かがうずめいていた。
そうして再び読書に耽る光明であった。


決戦の地、天界ではすでに戦いは終局へ迎えていた。魔王軍はすでに天界の全域を掌握し、神族の軍は風前の灯と化していた。
そして大神オーディンは追い詰められてしまう。
「ふっ、脆いな、グングニルを失い、頼りの戦乙女を失った天界などこんなものか……」
そう呟くのは魔剣を肩に抱えたデュークであった。あれから十数時間、その間もない時間であらゆる策を講じここまでやってきた。そしてついに終止符が打たれる時がやってきたのだ。
「全く惨めなものだな、大神オーディン。」
なお蔑む様に言い放つデュークの先にオーディンは満身創痍の状態。もはや反撃の余地はない。
「ぐううっ、魔族の若造風情がっ」
それでもなお抗おうとするオーディン。しかし、容赦なく彼に攻撃が襲いかかる。
「ぐはあっ!…がはっ」
遂に倒れるオーディン。そして彼を攻撃した相手は、
「お、お前たちは!?」
そう戦乙女たちであった。
「デューク様、天界の制圧完了しました。」
「よくやった。ヒルデガード。ついでに奴の始末も頼む。」
デュークの指さす方向にはオーディンが。そして、
「はあい!」
笑顔で答え、自分の親だった者を容赦なく切り裂くヒルデガード。そして血飛沫と共にオーディンは死に絶えた。
「これで天界は俺のものだ。さあ次は魔王を潰すぞ。」
デュークは微笑を浮かべ、堂々と言い放つ。彼は全てを支配するつもりだ。本気で何もかもを。

「これ以上好き勝手にはできないぜ、デューク。」
そう言い、姿を現したのは優樹と周希あった。
「ほお、お仲間をたった一人引き連れての登場か、何とも非力だな。」
「甘く見るなよ、誑かし野郎。てめえを魔界の底の地獄の奥底まで埋めてやる。」
「ふんっ、できるものならやってみろ。ああそうだ、冥土の土産にお前たちにこれをやろう。」
そう言い、差し出されたのはアリーヤであった。
アリーヤさん!」
アリーヤが近づくと共に周希も駆ける。だが1発の銃声が2人の動きを止める。
「たくっ、ほんとにくだらない真似をしてくれる。周希、離れろ」
「で、でも…」
「離れろって言っている!!」
優樹の怒声が響き、渋々離れる。アリーヤは驚いた顔を見せるがすぐに表情を戻す。
「周希は騙せても、俺は騙されないぜ、お前の首筋に赤い跡が残ってる。もう調教された後だな…そうだろ?」
「うっ」
つい押さえてしまうアリーヤ
「やっぱりか、すまないが今のは嘘だ。ここからじゃんな小さいもの見えない。だがお前は首を押えた。それが何よりの証拠だ。」
「ア、アリーヤさん……」
周希が悲しい顔でアリーヤを見つめた。そして彼女は笑い声を上げ、まわりから黒い煙を放出し、黒々とした鎧に身を包む。
「もう少しだったのに、さすがに救世主だって言い張るだけあるじゃないか……」
「ああ残念だ。さっさと済ませたかったが」
「周希の希望を裏切る真似は絶対にさせない。デュークをお前を倒す、徹底的にな。」
怒気を込めた口調で言い放つ優樹。
「デューク様の命を狙うものは誰であろうと容赦しないわ。」
レイヤがデュークの前に立ち、
「そう全ては、デューク様のために」
アリーヤヒルデガードが前に立ち口をそろえて話す。
「もはや魔族も神族も関係ない、刃向かう者は全て滅ぼし、この世界のすべてを、いやそれ以上を俺は手に入れる!」
デュークは高らかと宣言する。

「貴様にそのラグナロクは訪れはしない。全てを支配できる世界など存在してはいけない。貴様は純粋な笑顔を奪う最悪な野郎だ。」
「笑顔だと…そんなくだらないものに囚われてどうする?すべて欲の塊にしてしまえばいい。そう世界は今こそ本当の闇を迎える!」
「俺たちは信じている。どの世界にも希望があると!絶望にだけ染めるなんて誰も望まない。望んではいけないんだ!」
「その正義、鬱陶しいな。決めた、貴様に最高の絶望を与えよう。」
「俺は正義のために戦ってるんじゃない、命を救うために戦っている!」
「どちらも似たようなものだな。」
「違うな。俺はどんな手段を使っても救う、必ずな!」
自信を持ち臆さない青年をいぶかしげに見るデューク。
「お前は何者だ?」
「ただの救世主だ!すぐに分からしてやる。行くぞ周希!」
「はい!」
≪ヒーローライド…リアクト≫
≪ヒーローライド…リルート≫
「「変身ッッ!!」」

電子ボイスが鳴り響き、2人はアーマーに身を包む。そしてリルートにはほとんどのカードがブランクカード状態だったものに絵柄が戻り、全てが使用可能になる。
「決着です、アリーヤさん。あなたの言葉、忘れません。」
そしてたった2人だけで敵に戦いに挑む。