プロローグ


 そこは広い海が見渡せる海岸…
まさか10ヶ月前に戦争があったなど思えないくらいきれいだった。
とてもきれいな青色をしているが、所々に機械の破片やヘルメットなどが散乱している。
それが少し美しさを損なっていたがそれでも海はきれいだった…。
 そして海岸線にはひとつの家があった。少し普通の家より大きく、白い壁でお城を思わせるような作り、しかしひっそりとした感じの家だった。そしてロッジにある椅子に一人の青年がもたれかかっていた。そして彼の肩には白い猫とリスを掛け合わせた様な小動物がしっぽを揺らしながら目を瞑っていた。そしてその小動物が目を覚まし顔を上げる。
 その視線の先の扉から一人の女性が出てくる。長身で長髪の黒髪を後ろに束ねて黒のスーツ姿を身にまとう女性は普通にワンピースを着たら海ととてもマッチしそうな美しい女性だった。そして小動物は青年の肩から降りて女性の元へ向かう。それを笑顔で抱える女性。
ジャスティーったらほんとに懐きやすいんだから…私が飼ってるわけじゃないのに…」
彼女は小動物=ジャスティーの頭を撫でながら笑顔で言う。
「コウイチ、起きて。」
青年は自分の名前を呼ばれ反応する。
「起きてるよ、姉さん。ただ、波の音を聞きながら考え事をしてただけだよ。」
とコウイチは微笑を浮かべながら姉さん=理恵に顔を向ける。
「それならいいんだけど、これから出かけてくるわ。」
理恵もまた微笑を浮かべた。
「また会議?この頃多いね…TR関係の事?」
コウイチから笑顔が消え真顔に訪ねてくる。
「そんなにピリピリしないで…。私の仕事はロボット工学関係なんだから。」
理恵は困ったような顔をしながら答える。
「だけどそれはまた戦争の道具に使われるんだよ…皮肉だね…戦争が嫌で軍を辞めた弟の姉が戦争の道具を作ってるなんて…」
苦笑混じりにコウイチは言う。
「いい加減にしなさい!全く私だって好きでこんなことやってる訳じゃないわ。」
少し怒りの表情を浮かべる理恵。
「ごめん…だけど、それが現実なんだと思う。だから俺は避けてるんだ。もういろんな人が死ぬ所見たくないからね…もう時の流れにまかせるだけ…」
悲しみの表情を浮かべるコウイチ。彼は何度も辛い場面を見てきた。それが顔に出ているのであった。
「私の方こそごめんなさい。でもこれが私の仕事なの、それだけはわかって。もういかないと、朝食はテーブルに置いてあるから。」
理恵は彼の悲しみを拭うように笑顔で話す。
「ああ、ありがとう。」
コウイチはなるべく笑顔を保ちながら答える。
「今日もそこでじっとしてるの?」
ふと理恵が訪ねる。
「やることがないからね。一応家事とかやっとくけど今日もずっと家にいるよ。それに今までの事じっくり考えていたいから…」
コウイチは今まで経験したことを思い出しながら答えた。
「そう…家の事よろしくね。じゃあ行ってきます。」
理恵は急ぐように車へ乗り込む。
「行ってらっしゃい」
コウイチは小さな声で答え、再び目を瞑る。そして彼の膝にはジャスティーが乗ってきて目を瞑る。そうして10ヶ月前に軍を除隊してから何百回目となる今日をまた同じように過ごそうとしていた。
…しかし彼はまだ知らない。今日から再び過酷な運命を辿っていく事を…。